外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は、令和8年度診療報酬改定で初診時17点・再診時等4点になり、令和9年6月以降はその2倍で算定します(令和8年厚生労働省告示第69号、医科点数表のO001)。収入は対象職員の基本給か毎月決まって払う手当の引上げと、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費の増加分に使うのが原則で、毎年8月に地方厚生局へ実績を報告します。

診療所の実務で押さえることは3つです。1つ目は、改定前から算定していた診療所も、令和8年6月1日までに届け出直す必要があったこと(厚生労働省保険局医療課 事務連絡 令和8年4月24日)。2つ目は、賃金改善計画書の提出はなくなり、8月に中間報告書と実績報告書を出す形になったこと。3つ目は、対象職員の範囲(40歳以上の医師、役員、業務委託の人は入らない)を正しく数えることです。

この記事は、告示・「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日 保医発0305第8号)・疑義解釈資料にもとづいて、無床診療所が届出と報告で迷いやすい点を整理します。


1. 点数と算定する場面

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)

区分令和8年6月〜令和9年5月注5(継続して賃上げに取り組んだ医療機関)令和9年6月以降(注5の場合)
初診時17点23点40点
再診時等4点6点10点
訪問診療時(同一建物居住者等以外)79点107点186点
訪問診療時(上記以外)19点26点45点

注6で、1〜3の所定点数は令和9年6月以降は100分の200(2倍)で算定するとされています。注5の点数を使うには、別の施設基準(令和8年3月31日時点で(Ⅰ)を届け出ていた、または令和6年3月時点の給与体系と比べて一定水準以上の賃上げをした)に合っている必要があります。

算定できるのは、留意事項通知(保医発0305第6号 別添1)で決められた基本診療料などを算定したときに限られます。たとえば「1 初診時」は初診料や小児科外来診療料の初診の区分などを、「2 再診時等」は再診料・外来診療料・地域包括診療料などを算定した場合です。

令和8年度改定で「1日につき」の文言が削除されました。疑義解釈資料(その2、令和8年4月1日)問4では、同じ日に別の診療科を初診や再診で受けた場合の2つ目の診療科でも算定できるようにする趣旨と説明されています。

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)

(Ⅰ)だけでは賃上げの原資が大きく足りない医療機関のための上乗せです。区分は1〜24まであり、13〜24は令和9年6月以降に算定します。施設基準(第106)では、入院料の算定回数が月30回未満、(Ⅰ)を届け出ていて入院ベースアップ評価料を届け出ていないこと、(Ⅰ)の点数の見込み×10円が「賃金改善算定基礎額」の5割未満であることなどが求められます。区分の計算式は通知の別表3・別表4で確かめてください。

厚生労働省の「ベースアップ評価料の届出に必要な様式 早見表(令和8年度版)」では、無床診療所の大半は(Ⅰ)のみ、(Ⅱ)の対象は一部とされています。


2. 対象職員の範囲

施設基準では、対象職員は「当該保険医療機関に勤務する職員(40歳以上の医師及び歯科医師並びに業務委託により勤務する者を除く)」です。疑義解釈で次の点が示されています。

職員の種類扱い根拠
看護師・准看護師・医療事務・受付対象施設基準 第105
医師事務作業補助者・診療情報管理士「事務職員」として対象疑義解釈その7 問6
40歳未満の勤務医対象(支払い対象月の初日時点で40歳未満かで判断)疑義解釈その3 問5
開設者・管理者・法人の代表者・役員対象外疑義解釈その4 問1
業務委託の人(請負)対象外施設基準、疑義解釈その2 問2
派遣職員一定の条件で対象にできる疑義解釈その2 問2
法人本部の職員主としてその医療機関の業務をしていれば対象疑義解釈その5 問8

派遣職員を対象にするには、派遣元と協力して同程度以上の賃金改善を行い、実績報告書にもその職員を含めて書く必要があります。常勤の職員がおらず非常勤だけの診療所では、非常勤の週の所定労働時間の合計を32時間で割って常勤換算します(疑義解釈その12 問1)。


3. 収入の使い道のルール

施設基準(第105の1の(3))の要点は次のとおりです。

  • 収入は、対象職員の基本給等(基本給か、決まって毎月支払われる手当)の引上げ(ベア等)と、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費(事業者負担分を含む)の増加分に使う
  • ベア等を行ったうえで、患者数の変動などで収入が上回り、追加のベア等が難しい場合に限り、賞与などで改善してよい
  • 改善の対象にする賃金項目を特定し、ほかの賃金項目(業績で変動するものを除く)の水準を下げない
  • 実績は、令和8年3月または5月時点の給与体系を今年度の職員に当てはめた基本給等総額と、実際の基本給等総額の差で判断する
  • 「令和7年度医療機関等における賃上げ・物価上昇に対する支援事業」の補助金による部分は、実績に含めない

時期については、疑義解釈その2 問5で、原則として算定開始月から賃金改善を行い、算定する月は続ける必要があるとされています。6月から翌年5月に算定した収入を、4月から翌年3月の賃金改善に充てることは差し支えありません。一方、その7 問4では、たとえば6月から12月だけ算定した収入を翌年3月までの賃金改善に回すことは原則として不可とされています。

令和8年度改定では、収入を翌年度に繰り越す規定がなくなりました。疑義解釈その2 問6では、令和8年6月から令和9年5月までの収入は原則として令和9年5月までの賃金改善に使い、見積もったのに患者数の変動で残りが出た場合は、実績報告書を出す8月までの賃金改善に充てて報告してよいとされています。

新しく設けた手当に充てることは、一時的なものでなく毎月決まって払う給与であれば差し支えないとされています(疑義解釈その7 問3)。


4. 届出と毎年の報告

届出

場面様式注意点
(Ⅰ)を届け出る様式95届出前の1か月の給与の支払い実績が必要(疑義解釈その2 問3)
(Ⅰ)の注5を使う(令和6年3月時点との比較で満たす場合)様式95に加えて様式98令和8年3月31日時点で(Ⅰ)を届け出ていた診療所は、この比較がなくても注5の対象
(Ⅱ)も届け出る様式95と96届出前の3か月の給与の支払い実績が必要

改定前から算定していた診療所も、施設基準の内容が変わったため、令和8年6月1日までに改めて届け出る必要がありました(令和8年4月24日の事務連絡)。まだ届け出ていない場合は、通常の届出と同じく受理の月で算定の開始が決まるので、施設基準の届出の流れを確かめてから出します。

毎年8月の報告

施設基準の通知では、毎年8月に次の2つを様式100の別添1で地方厚生局に報告します。

報告書中身
賃金改善実績報告書前年度の賃金改善の取組状況
賃金改善中間報告書算定している年度の賃金改善の取組状況

令和8年度の中間報告書は、令和8年6月と7月分の賃上げ実績を書きます。4月から賃上げしていた場合も4月・5月分ではありません(疑義解釈その5 問6)。改定前から届け出ていた診療所は、令和8年8月に令和7年度の実績報告書(改定前の様式)と令和8年度の中間報告書(改定後の様式)を出すこととされていました(疑義解釈その11 問6)。

報告書の根拠になる資料は、算定する年度の終了後3年間保管します。職員の賃金水準を引き下げたうえで改善する場合は、「特別事情届出書」(様式94)が必要です。

区分の変更と辞退

(Ⅱ)の区分は、対象職員の数か3か月ごとの(Ⅰ)の算定回数が1割以上変わり、計算し直して区分が変わる場合に、算出した月内に届け出て翌月から新しい区分で算定します。対象職員が0人になるなど施設基準を満たさなくなったときは、速やかに変更の届出を行い、届け出た日の属する月の翌月から算定しません(疑義解釈その11 問1)。


5. 自院の点検表

確かめること済
令和8年度改定後の様式で届け出ている(改定前の届出のままではない)
対象職員の名簿で、40歳以上の医師・役員・業務委託の人を除いている
派遣職員を含める場合、派遣元から賃金の情報を受け取る段取りがある
評価料で上げる賃金項目(基本給、新設の手当など)を特定し、就業規則や賃金規程に書いた
賃金改善の方法を対象職員に知らせ、問い合わせに書面で答えられる
月ごとの評価料の収入と賃金改善額を並べて記録している
8月の中間報告書・実績報告書の作成担当と締切を決めた
令和9年6月の点数の変更(2倍)と、その分の賃上げの見込みを立てた

収支への影響を見るときは、評価料の収入と人件費の増加を同じ表で並べると判断しやすくなります。診療所の収支の見方の人件費率の考え方も参考にしてください。


6. 落とし穴

  • 改定前の届出のまま算定を続ける:令和8年6月以降は、施設基準が変わったため届け出直しが必要でした。受理状況を地方厚生局のページで確かめます。
  • 院長や役員の給与を改善額に含める:開設者・管理者・役員は対象外です。
  • 賞与だけで配る:ベア等が原則で、賞与などに回せるのは、ベア等をしたうえで収入が上回った場合に限られます。
  • ほかの手当を下げて帳尻を合わせる:評価料で上げる項目以外の賃金項目の水準を下げてはいけません。
  • 補助金の分を実績に入れる:令和7年度の賃上げ・物価上昇に対する支援事業の補助金による部分は、実績に含めません。
  • 8月の報告を忘れる:8月は定例報告と重なります。7月中に6月・7月分の給与データをそろえておきます。
  • 令和9年6月の変化を見込まない:点数が2倍になると収入も増えるので、それに見合う賃上げを計画しておく必要があります。

7. まとめ

  • (Ⅰ)は初診時17点・再診時等4点、令和9年6月以降は2倍。(Ⅱ)は(Ⅰ)で原資が足りない一部の診療所向け
  • 対象職員は40歳以上の医師・歯科医師、業務委託の人、開設者・管理者・役員を除いた職員。医療事務も入る
  • 収入はベア等とそれに伴う増加分に使い、ほかの賃金項目を下げない
  • 計画書はなく、毎年8月に中間報告書と実績報告書を出す。根拠の資料は3年間保管
  • 職員数などが1割以上変わって区分が変わるとき、施設基準を満たさなくなったときは届け出る

個別の計算や届出の可否で迷う場合は、管轄の地方厚生局に確認してください。改定全体の変更点は令和8年度改定で診療所が確かめることにまとめています。


参考資料