返戻と査定は、どちらも「請求した額が入ってこない」点では同じに見えますが、中身はまったく違います。返戻は、レセプトが戻されて請求が成り立っていない状態で、直して出し直せば支払いの対象に戻ります。査定は、審査の結果として点数が減らされた状態で、納得できないときは再審査を申し出る別の手続きになります。

減らすための打ち手も分かれます。返戻は、資格の誤りや記載の漏れといった事務の誤りが中心なので、提出前の点検の型を決めれば大きく減らせます。査定は、傷病名と診療内容のつながりが審査委員に伝わっていないことが多く、医師が関わる点検と症状詳記で防ぎます。

この記事では、通知書の読み分け、提出前の点検表、返戻・査定を受けたあとの手順を、厚生労働省の記載要領と「保険診療の理解のために」、各地の国民健康保険団体連合会(国保連)の案内にもとづいて整理します。


1. 返戻・査定・過誤・取下げの違い

毎月の請求のあとに届く通知と、医療機関が自分で行う手続きを並べると、次のようになります。名称は国保連の案内で使われているものです。

区分何が起きているか主な通知・手続き医療機関がすること
返戻レセプトが医療機関に戻され、その分の請求が成り立っていない増減点返戻通知書と、返戻されたレセプト理由を直して再請求する
査定(減点)審査の結果、点数が減らされ、減った分を除いて支払われる増減点返戻通知書内容を確かめ、必要なら再審査を申し出る
過誤・再審査による調整支払いのあとに、保険者の申し出などで再審査され、減点や返戻が行われる過誤・再審査結果通知書内容を確かめ、必要なら再審査を申し出る
取下げ医療機関が自分で誤りに気づき、出したレセプトを引き下げる再審査・取下げ依頼書(オンライン請求システムでも可)取り下げたうえで、正しいレセプトを出し直す

請求の締め切りは、「療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令」の第2条で、各月分について翌月10日までと決められています。京都府国保連は、郵送は10日必着、オンライン請求は10日の23時59分までと案内しています。

通知が届く日は審査支払機関ごとに違います。例えば京都府国保連は、増減点返戻通知書などを毎月5日、振込の通知を毎月14日にオンラインで配信すると案内しています。自院の提出先の配信日を確かめ、その日に通知を開く担当を決めておくと、再請求が1か月遅れるのを防げます。

なお、社会保険診療報酬支払基金のホームページは、2026年10月1日時点で、「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」への名称の変更にともなう切り替え作業中と表示されています。社会保険分の再審査の様式や案内は、新しいホームページの公開後に確かめてください。


2. 返戻・査定はなぜ起きるか

返戻の主な原因

返戻の多くは、診療の中身ではなく事務の誤りから起きます。

  • 保険者番号・記号番号・負担割合などの資格情報の誤り、資格を失った保険証での受診
  • 公費の受給者番号の誤り、公費と保険の順番の誤り
  • 記載要領で決められた摘要欄の記載やコードの漏れ
  • 同じ患者のレセプトの重複

資格の誤りは、受付でオンライン資格確認を確実に回すことで大きく減らせます。窓口の手順はマイナ保険証の受付の流れにまとめています。

査定の主な原因

査定は、レセプトに書かれた傷病名と診療内容のつながりが審査の側から読み取れないときに起きます。

  • 検査・投薬の根拠になる傷病名が書かれていない
  • 算定の回数や併算定の制限を超えている
  • 適応のない薬剤や、用量が多い薬剤を使っている
  • 検査や処置の必要性が、傷病名だけでは伝わらない

ここで注意したいのは、査定を避けるための傷病名の付け足しです。厚生労働省の「保険診療の理解のために(医科)令和8年度」は、審査での査定を逃れるために実態のない傷病名を付けること(いわゆるレセプト病名)を極めて不適切とし、場合によっては不正請求と認定される可能性もあるとしています。令和7年度の特定共同指導・共同指導の主な指摘事項にも、査定を防ぐ目的で付けた医学的な根拠のない傷病名が挙がっています。

同じ資料は、傷病名だけでは説明が足りないときは、請求点数の高低にかかわらず症状詳記で補うよう求めています。症状詳記は、客観的な事実(検査結果など)を中心に、診療録やレセプトの内容と矛盾しないように書きます。


3. 提出前の点検表

「保険診療の理解のために」は、提出前にレセプトを診療録と照らし合わせ、誤りや不備がないかを十分に確かめるよう求め、点検の注意点の例を挙げています。療養担当規則の第23条の2は、保険医にも、費用の請求が適正なものとなるよう努める義務を課しています。レセプトは事務だけで作るものではない、という前提で点検の分担を決めます。

資料の例に、診療所で返戻の原因になりやすい項目を足すと、次のような点検表になります。

見る項目確かめること主に見る人
資格保険者番号・記号番号・負担割合・公費の受給者番号が、その月の資格確認の結果と合っているか受付・事務
傷病名診療録に記載した傷病名と一致しているか。主治医が付けた傷病名か医師・事務
傷病名の整理疑い病名・急性病名が長く残っていないか。転帰が書かれているか医師
診療開始日レセプトと診療録で一致しているか事務
請求内容診療録の診療内容と一致しているか。医師が実施していない医学管理料を算定していないか医師・事務
記載が要件の項目診療録への記載が要件になっている項目で、必要な記載があるか医師
薬剤中止・取消した薬剤を算定していないか。処置に使った薬剤を投薬欄に入れていないか事務
摘要欄記載要領の別表Ⅰで記載やコードの選択が求められている項目に漏れがないか事務
症状詳記傷病名だけでは必要性が伝わらない検査・処置に、事実にもとづく詳記があるか医師

令和8年度改定で、10月診療分から見ておくこと

令和8年度の記載要領の改正(保医発0327第2号)は、摘要欄への記載事項の一覧(別表Ⅰ〜Ⅳ)で「令和8年6月1日適用」と表示されたコードについて、令和8年10月診療分以降に選択することとして差し支えないとしています。裏を返せば、10月診療分(11月10日までに出す請求)からは、新しいコードを選ぶ前提で点検する必要があります。レセプトコンピュータの更新が入っているか、新設の項目を算定した患者で摘要欄のコードが出ているかを、11月の請求の前に一度確かめてください。

改定で新設・変更された項目そのものは、令和8年度改定で診療所が確かめることにまとめています。届出が要件の加算は、届出の受理より前の月に算定していないかも点検の対象です。届出の流れは施設基準の届出の手順を参照してください。


4. 返戻・査定を受けたあとの手順

手順1 通知を当日に開き、返戻と査定を分ける

通知が届いたら、まず返戻と査定を分け、件数と点数を一覧にします。返戻は再請求の期限(次の締め切り)に間に合わせる作業、査定は再審査を申し出るかどうかの判断が必要な作業で、担当と期限が違うためです。

手順2 返戻は理由を直して再請求する

返戻の理由を直し、次の締め切りに合わせて出し直します。記載要領は、診療報酬請求書は診療年月ごとに作るのが原則だが、返戻分の再請求など、やむを得ない事由による請求遅れ分はこの限りでないとしています。東京都国保連は、再請求のレセプトに再審査・取下げ依頼書を付ける必要はないと案内しています。

京都府国保連は、同じレセプトが重ねて返戻されたときは、いずれか1枚だけを出し、一部だけ重なるときは内容をまとめて1枚で出すよう案内しています。重ねて出すと、再び返戻の原因になります。

手順3 査定は、根拠を確かめてから再審査を申し出る

査定された項目ごとに、診療録と照らして、算定が要件を満たしていたか、医学的な必要性を事実で説明できるかを医師と確かめます。説明できるものは再審査を申し出ます。

東京都国保連の案内では、再審査・取下げ依頼書はレセプト1件ごとに作り、紙で出すときは、一次審査の結果に対するものなら該当する明細書の控えと増減点返戻通知書の写しを、突合審査や再審査の結果に対するものなら明細書の控えと過誤・再審査結果通知書の写しを付けます。オンライン請求をしている医療機関は、オンライン請求システムからの申し出を求められています。

申し出の期限や様式は審査支払機関ごとの取り扱いがあります。通知を受けたら早めに判断し、期限は提出先の案内で確かめてください。

手順4 取下げは、当月分かどうかで方法が違う

自院で誤りに気づいたときは取下げを依頼します。京都府国保連・東京都国保連とも、当月に請求したレセプトはオンライン請求システムでは取り下げられず、紙の依頼書で出すよう案内しています。京都府国保連は電話での取下げも受け付けていません。

手順5 原因を記録し、翌月の点検表に戻す

返戻と査定の理由を、「資格」「傷病名」「回数・併算定」「摘要欄」「症状詳記」のような区分で毎月記録します。同じ理由が続く項目を、翌月の点検表の最初に置きます。個別指導では、指導月以前の請求で誤りが見つかると自主返還を求められることがあるため、査定の傾向は指導への備えにもなります。準備の流れは個別指導の準備で扱っています。


5. 落とし穴

  • 査定を避けるために傷病名を付け足す。 レセプト病名は不正請求と認定される可能性があるとされています。東京都国保連は、病名の欠落や記載誤りによる減額査定は再審査の対象にならないとしています。傷病名は診断の都度、主治医が診療録に付けるのが原則です。
  • 事務担当が医師に確かめずに傷病名を付ける。 「保険診療の理解のために」は、これを厳に慎むよう求めています。点検で漏れに気づいたら、医師に確認を回す流れにします。
  • 疑い病名を放置する。 疑い病名は診断がついた時点で確定病名に変え、該当しないと判断したら中止にします。長く残った疑い病名は、指導でも指摘されています。
  • 返戻を月末まで開かない。 通知の配信日から締め切りまでは長くありません。開くのが遅れると、再請求が翌々月に回り、入金が遅れます。
  • 症状詳記を、事実でなく「必要と判断した」の一言で済ませる。 検査結果や経過など、客観的な事実で書きます。診療録と矛盾する詳記は、指導で問題になります。
  • 支払基金の旧ホームページの案内をそのまま使い続ける。 名称の変更にともない案内の置き場所が変わっています。様式を使う前に、新しいホームページで最新のものか確かめます。

6. まとめ

  • 返戻は請求が成り立っていない状態で、直して再請求する。査定は点数が減らされた状態で、納得できないときは再審査を申し出る。
  • 請求の締め切りは各月分について翌月10日。通知の配信日に開く担当を決め、返戻を次の締め切りに間に合わせる。
  • 提出前の点検は、診療録と照らし合わせることが基本。傷病名・請求内容・摘要欄・症状詳記を、医師と事務で分担して見る。
  • 令和8年度改定の新しい摘要欄のコードは、10月診療分から選ぶ前提で点検する。
  • 査定を避けるための傷病名の付け足しはしない。再審査は、診療録にある事実と医学的な理由で説明できるときに申し出る。

参考資料