診療所の収支は、収益を「患者数×単価」に分け、費用を給与費・医薬品費・その他に分けて読むと、どこに手を打つべきかが見えます。公的な統計と比べるなら、厚生労働省の医療経済実態調査が基本で、単価と患者数は医療費の動向(MEDIAS)で確かめられます。

直近の数字は厳しい方向に動いています。第25回医療経済実態調査(令和7年11月26日公表)では、無床診療所(医療法人)の損益差額率は9.3%から5.4%に下がり、給与費の率は48.1%から51.0%に上がりました。医業収益が下がり、給与費と医薬品費が上がったためです。

この記事では、公的な統計の数字の読み方と、自院の収支を同じ形で整理する方法を説明します。


1. 収支の構造

要素分け方自院で取れる数字
収益延べ患者数 × 1日あたりの単価レセプトコンピュータの日計・月計
給与費職員の給与・賞与・法定福利費給与台帳
医薬品費・材料費院内処方か院外処方かで大きく違う仕入の記録
委託費検査、清掃、医療事務などの外部委託請求書
減価償却費建物・医療機器固定資産台帳
その他家賃、光熱水費、リース、広告など会計帳簿
損益差額収益 − 費用

保険診療の単価は、診療報酬の点数で決まります。1点は10円です(診療報酬の算定方法、告示第59号)。患者の一部負担は健康保険法第74条などで定められていて、残りを保険者に請求します。収益は窓口の入金ではなく、一部負担と保険請求の合計で見ます。


2. 公的な統計で見る診療所の収支

医療経済実態調査(第25回)

一般診療所2,232施設(有効回答率54.9%)の、令和7年3月末までに終わる直近の事業年度(最新年)と、その前の事業年度(前年)の2年分を比べています。数字は新型コロナウイルス感染症関係の補助金を除いたものです。

無床診療所・医療法人(1,238施設)(単位:千円)

項目前年最新年
医業収益173,809169,706
給与費(率)85,270(48.1%)88,243(51.0%)
医薬品費18,92319,424
損益差額(率)16,447(9.3%)9,304(5.4%)

無床診療所・個人(830施設、青色申告者を含む)(単位:千円)

項目前年最新年
医業収益90,85288,408
給与費(率)24,342(26.7%)25,098(28.3%)
医薬品費11,38811,837
損益差額(率)29,430(32.3%)25,839(29.1%)

率は調査報告に示された値です。材料費、委託費、減価償却費などの内訳は、調査報告で確かめられます。

有床診療所の損益差額率は、医療法人で2.5%から1.4%、個人で25.1%から23.0%でした。医療法人の院長の給料・賞与(年額)は、27,813,768円から28,978,974円でした。

医療法人と個人を比べるときの注意

個人の診療所の給与費には、開設者である院長の報酬が含まれていません。個人の損益差額は、開設者の報酬と、設備の投資や借入金の返済などに充てる内部資金に相当するものです。個人の損益差額率が高く見えるのはこのためで、医療法人と数字をそのまま比べることはできません。自院が個人なら、損益差額から院長の生活費・税金・返済を差し引いた残りで見ます。


3. 単価と患者数

1日あたりの単価

資料数字
医療費の動向(令和7年度)医科診療所・入院外の1日あたり医療費7,743円
同 内科の1日あたり医療費9,619円
社会医療診療行為別統計(令和7年)診療所・入院外の1日あたり点数754.2点

医療費の動向(MEDIAS、令和8年8月28日公表)では、医科診療所の入院外の1施設あたりの医療費は11,150万円、1施設あたりの受診延日数は14,084日でした。1日あたりの単価は診療科で大きく違うため、自院と比べるときは同じ診療科の数字を見ます。

自院の単価と患者数の出し方

  1. レセプトコンピュータから、月ごとの請求点数(一部負担を含む総点数)と延べ患者数(受診延日数)を出す
  2. 総点数 ÷ 延べ患者数 × 10円 で、1日あたりの単価を出す
  3. 延べ患者数 ÷ 診療日数 で、1日あたりの患者数を出す
  4. 初診と再診、主な算定項目(管理料・検査など)の構成を見る

診療所1施設あたりの1日の外来患者数の公的な平均は、この記事の執筆時点では確かめられていません。自院の月ごとの推移で見ます。


4. 費用の見方

給与費

給与費の率は、医療法人の無床診療所で5割を超えました。給与費の率が上がる理由は、給与の引き上げと、収益の減少の2つです。率だけでなく、給与費の額と収益の額を別々に見ます。

令和6年度・令和8年度の診療報酬改定では、職員の賃上げのためのベースアップ評価料が設けられています。算定している場合は、その収益と、賃上げに充てた額を並べて確かめます。令和8年度改定の内容は令和8年度診療報酬改定で診療所が確かめることで扱っています。

医薬品費

院内で処方する診療所は医薬品費が大きくなり、薬剤の収益も入ります。院外処方の診療所は医薬品費が小さくなります。医薬品費の率を他院と比べるときは、院内処方か院外処方かをそろえます。

その他の費用

家賃、リース料、委託費、広告費などは、契約の見直しで変えられる費用です。年に1回、契約ごとに金額と更新の時期を一覧にします。


5. 収支の改善の考え方

効く要素確かめること
算定漏れを防ぐ単価施設基準の届出が済んでいるか、管理料・加算を算定できているか
患者が受診しやすくする患者数待ち時間、予約、Googleマップ・ウェブサイトの情報
業務の分担を見直す給与費医師・看護師・医療事務の業務の分担
契約を見直すその他の費用委託費・リース・家賃の更新の時期
職員の定着給与費(採用の費用)採用と離職の記録、紹介手数料

算定の漏れは、届出をしていないために算定できない項目が多く、施設基準の届出の流れと注意点が関わります。患者の受診のしやすさはクリニックの待ち時間を減らす、採用の費用はクリニックの看護師の採用で扱っています。


6. 月次で見る収支の表

自院の収支を、次の形で毎月まとめます。

項目今月前年同月
延べ患者数
1日あたりの患者数
1日あたりの単価
医業収益
給与費(率)
医薬品費・材料費
委託費
減価償却費
その他
損益差額(率)

前年の同じ月と比べるのは、季節による患者数の変動(感染症の流行の時期など)があるためです。


7. チェックリスト

  • 収益を、一部負担と保険請求の合計で見ている
  • 延べ患者数と1日あたりの単価を毎月出している
  • 給与費の額と率を毎月見ている
  • 院内処方か院外処方かをそろえて、他院の数字と比べている
  • 個人の診療所なら、院長の報酬が損益差額に含まれていることを踏まえて見ている
  • 前年同月と比べている
  • 算定できる加算の届出が済んでいるかを、改定のたびに確かめている
  • 委託費・リース・家賃の契約の一覧がある

8. 落とし穴

  • 個人と医療法人の数字をそのまま比べる:個人の給与費には院長の報酬が入っていません。
  • 率だけを見る:給与費の率が上がっても、収益が下がったのか給与費が上がったのかで、手が違います。
  • 診療科の違いを無視する:1日あたりの単価は診療科で大きく違います。
  • 窓口の入金だけで収益を見る:保険請求分の入金は後になります。点数で見ます。
  • 補助金の年を含めて比べる:医療経済実態調査は補助金を除いて示しています。自院の数字も同じ条件にそろえます。

9. まとめ

  • 収益は延べ患者数×1日あたりの単価。1点は10円
  • 無床診療所(医療法人)の損益差額率は9.3%から5.4%に下がり、給与費の率は51.0%になった(第25回医療経済実態調査)
  • 個人の診療所の損益差額には院長の報酬分が含まれ、医療法人とそのまま比べられない
  • 医科診療所の入院外の1日あたり医療費は7,743円(令和7年度)。診療科で大きく違う
  • 自院の収支は、前年同月と比べて毎月見る

参考資料