個別指導は、地方厚生(支)局と都道府県が、原則として指導月以前の連続した2か月分のレセプトにもとづき、診療録などの関係書類を見ながら面接懇談方式で行う指導です(指導大綱 第6の3)。準備の中心は、対象患者の診療録とレセプトが同じことを言っているかを確かめることです。
通知から当日までにやることは、(1) 実施通知と事前提出書類の期限の確認、(2) 出席者と役割分担の決定、(3) 対象になり得る2か月分のレセプトの点検、(4) 対象患者が示されてからの診療録・検査結果・同意書などの準備、の4つです。慌てて診療録を書き足すことは改ざんを疑われる原因になるので、準備は「そろえる」「確かめる」であって「直す」ではない、と院内で共有しておきます。
この記事は、「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(平成7年12月22日 保発第117号、最終改正 令和8年3月30日 保発第27号)の指導大綱と、厚生労働省保険局医療課医療指導監査室の「保険診療の理解のために【医科】(令和8年度)」にもとづいて整理します。
1. 指導の種類と、個別指導に選ばれる理由
指導の形態
| 形態 | やり方 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 集団指導 | 一定の場所に集めて講習・講演の形で行う | 新規指定の医療機関(概ね1年以内に全部)、改定時など |
| 集団的個別指導 | 集めて、少数のレセプトをもとに簡便な面接懇談で行う | レセプト1件当たりの平均点数が高い医療機関 |
| 個別指導(都道府県個別指導) | 地方厚生局と都道府県が共同で、面接懇談方式で行う | 下の選定基準に当たる医療機関 |
| 共同指導・特定共同指導 | 厚生労働省も加わって行う | 改善が見られない医療機関、大学病院など |
新規に指定された医療機関に対する「新規個別指導」も、厚生労働省の「指導・監査の流れ」の図に示されています。
個別指導の選定基準(指導大綱 第4の4)
都道府県個別指導は、次に当たるものについて原則として全件行うとされています。
- 支払基金・保険者・被保険者などから、診療内容や請求について情報提供があり、個別指導が必要と認められた
- 前回の個別指導の結果が「再指導」、または「経過観察」で改善が認められない
- 監査の結果、戒告または注意を受けた
- 集団的個別指導で、対象の大部分のレセプトに適正を欠くものがあった
- 集団的個別指導を受けた翌年度の実績でも、なお高点数に当たる
- 正当な理由なく集団的個別指導を拒否した
高点数の目安
厚生労働省の「集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について」では、集団的個別指導の対象は、レセプト1件当たりの平均点数が都道府県の平均の1.2倍(医科診療所)を超え、前年度・前々年度に集団的個別指導や個別指導を受けたものを除いて、類型区分ごとに上位から概ね8%の範囲とされています。医科診療所の類型区分は、内科・小児科・整形外科など12区分です。
専門性の高い診療で平均点数が高くなるのは珍しくありません。選ばれたことが不正の疑いを意味するわけではないので、落ち着いて準備します。
2. 実施通知から当日までの流れ
指導大綱では、地方厚生局はあらかじめ、根拠規定と目的、日時(土曜日と休日を除く)と場所、出席者、準備すべき書類を文書で通知するとされています。東京都医師会の案内では、実施通知は指導の約1か月前、対象患者は指導日の1週間前に20名分、前日に10名分が示されるとされています(新規個別指導は診療所の場合、1週間前に10名分)。所要時間は、新規個別指導が概ね1時間、個別指導が概ね2時間とされています。
| 時期 | やること | 担当の例 |
|---|---|---|
| 通知を受けた日 | 日時・場所・出席者・準備書類・事前提出書類の期限を書き出す | 事務長 |
| 通知から1週間以内 | 当日の休診や代診の手配、出席者の決定 | 院長・事務長 |
| 事前提出の期限まで | 「保険医療機関の現況」など厚生局の様式を作って出す | 事務長 |
| 対象期間のレセプトが分かった時点 | 算定の多い項目、医学管理料、検査の要件を点検する | 医療事務の責任者 |
| 1週間前(20名分) | 診療録、検査結果、同意書、計画書、紹介状の控えをそろえる | 医療事務・看護師 |
| 前日(10名分) | 同じ準備を追加の患者分で行う | 医療事務・看護師 |
| 当日 | 持参物の確認、質問に答える担当を決めておく | 院長・事務長 |
事前提出書類の様式は、関東信越・近畿・九州などの各厚生局のウェブページに掲載されています。提出期限と提出方法(メールなど)は実施通知に書かれているので、必ず通知で確かめます。
出席者
指導大綱では、個別指導には開設者(またはこれに代わる者)と管理者の出席が求められ、必要に応じて保険医、診療報酬請求事務担当者、看護担当者などの出席が求められます。都道府県医師会などに立会いが依頼されることもあります。
3. 事前に点検すること
診療録
「保険診療の理解のために」では、診療録は診療経過の記録であると同時に、診療報酬請求の根拠であり、必要事項が十分に書かれていなければ不正請求の疑いを招くおそれがあるとされています。点検の観点は次のとおりです。
| 点検すること | 見る場所 |
|---|---|
| 受診の都度、診療の経過が書かれているか | 対象患者の診療録 |
| 医学管理料などで、算定要件として記載が求められる事項(指導内容の要点など)が書かれているか | 医学管理料を算定した日の記載 |
| 電子カルテで、入力者・確定者の識別、更新履歴、代行入力の承認ができているか | 電子カルテの運用 |
| 紙の診療録の修正が、修正液や貼り紙ではなく二重線か | 紙の診療録 |
| 同意書・計画書・情報提供書の写しが保管されているか | 文書の保管場所 |
傷病名
傷病名は、医学的に妥当適切なものを主治医自らが付け、転帰を書いて整理することが求められます。いわゆる「レセプト病名」(査定を逃れるために付けた実態のない傷病名)は、場合によっては不正請求と認定される可能性があるとされています。長く残っている「疑い」病名、重複する病名、急性病名が長期間続いているものを見直しておきます。
算定の根拠
厚生労働省が公表している「令和7年度 特定共同指導・共同指導(医科)における主な指摘事項」には、診療録に必要な記載がない、傷病名の転帰がない、段階を踏んでいない検査や重複とみなされる検査がある、といった指摘が並んでいます。病院向けの項目も多いですが、診療録・傷病名・検査の指摘は診療所にもそのまま当てはまります。
自院で点検するときは、厚生労働省の「保険診療確認事項リスト(医科)」を使うと、療養担当規則と算定のルールを項目ごとに確かめられます。施設基準の届出をしている加算は、要件を満たす根拠の記録も一緒にそろえます(届出の管理は施設基準の届出の流れを参照してください)。
4. 当日の進め方
- 対象患者の診療録とレセプトを並べ、担当者の質問に事実どおりに答えます。分からないことは、推測で答えずに「確認して回答します」と言い、あとで確かめます。
- 質問の内容と、指摘された事項をその場で記録する係を決めておきます。
- 指導大綱では、個別指導が終わった時点で口頭で結果が説明され、後日、文書で結果と措置が通知されます。
5. 結果と、その後にやること
措置の4区分(指導大綱 第7)
| 区分 | 内容 | その後 |
|---|---|---|
| 概ね妥当 | 診療内容・請求が概ね妥当適切 | 指摘事項があれば改善する |
| 経過観察 | 適正を欠く部分があるが軽微で、改善が期待できる | 改善が認められないときは再指導 |
| 再指導 | 適正を欠く部分があり、再度指導しないと改善状況が判断できない | 改めて個別指導 |
| 要監査 | 監査要綱の監査要件に当たる | 後日速やかに監査 |
地方厚生局は、指摘した事項について改善報告書の提出を求めます。正当な理由なく個別指導を拒否した場合は監査を行うとされています(指導大綱 第8)。
返還
令和6年度の実施状況(厚生労働省)では、個別指導は医科で894件、新規個別指導は医科で2,599件行われ、指導・適時調査・監査で返還を求めた額は約48.5億円(うち指導による返還分は約17.3億円)でした。東京都医師会の案内では、個別指導で自主点検・自主返還を求められる場合、対象は過去1年間の全診療分、新規個別指導では対象になったレセプトのみとされています。範囲と方法は結果通知で確かめます。
改善の定着
指摘された事項は、院内のマニュアル、電子カルテのテンプレート、レセプト点検のチェック項目に反映します。ベースアップ評価料のように毎年の報告がある項目は、根拠の資料の保管期間も含めて評価料の報告の手順のように院内の手順に落としておくと、指導の場で説明しやすくなります。
6. 落とし穴
- 準備の名目で診療録を書き足す:後から書き足した記載は、改ざんを疑われる原因になります。監査要綱の取消処分の基準には、管理者が職員に診療録等の書類の改ざんを行うよう指示したものが挙げられています。
- 事務職員だけで傷病名を付けている:傷病名は主治医自らが付けるものとされています。
- 電子カルテの代行入力を承認していない:代行入力の承認は、真正性の確保として求められています。
- 施設基準の根拠の記録がない:届け出た加算の要件を満たしていることを示す記録を、日頃から残しておきます。
- 前日の10名分に対応できない:前日の夕方からの準備になるので、書類の置き場を決め、誰が集めるかを先に決めておきます。
- 改善報告書を出して終わりにする:同じ指摘が続くと、経過観察から再指導、監査へと進むことがあります。
7. まとめ
- 個別指導は、原則として直近の連続した2か月分のレセプトにもとづき、診療録を見ながら面接で行う
- 選ばれる理由は、情報提供、高点数、前回の結果など。選ばれたこと自体は不正の疑いを意味しない
- 通知は約1か月前、対象患者は1週間前と前日に示される(東京都医師会の案内)
- 準備は診療録・傷病名・算定根拠の確認で、診療録を書き直すことではない
- 結果は4区分。改善報告書を出し、指摘を院内の仕組みに反映する
個別の対応に迷う場合は、実施通知に記載された地方厚生局の担当や、所属する医師会の相談窓口に確認してください。改定後の算定の変更点は令和8年度改定で診療所が確かめることにまとめています。
参考資料
- 厚生労働省「保険診療における指導・監査」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa.html
- 厚生労働省「指導大綱、監査要綱」(平成7年12月22日 保発第117号、最終改正 令和8年3月30日 保発第27号): https://www.mhlw.go.jp/content/001685596.pdf
- 厚生労働省「指導・監査の流れ」: https://www.mhlw.go.jp/content/001685602.pdf
- 厚生労働省「集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について」: https://www.mhlw.go.jp/content/001685603.pdf
- 厚生労働省保険局医療課医療指導監査室「保険診療の理解のために【医科】(令和8年度)」: https://www.mhlw.go.jp/content/001713152.pdf
- 厚生労働省「保険診療確認事項リスト(医科)」: https://www.mhlw.go.jp/content/001563227.pdf
- 厚生労働省「令和7年度 特定共同指導・共同指導(医科)における主な指摘事項」: https://www.mhlw.go.jp/content/001724668.pdf
- 厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000188884_00004.html
- 関東信越厚生局「個別指導・新規個別指導に係る事前提出書類について」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iryo_shido/kobetsu.html
- 近畿厚生局「新規個別指導・個別指導に係る事前提出資料について」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iryo_shido/zizenteisyutusiryou.html
- 東京都医師会「新規個別指導、集団的個別指導、個別指導、監査等」: https://www.tokyo.med.or.jp/doctor/practicing_docs/general/01-14