クリニックの受付は、個人情報の扱いに迷う場面がいちばん集まる場所です。待合室での氏名の呼び出し、家族や知人を名乗る電話、付き添いの家族への説明、診断書や検査結果の受け渡し。受付の職員がその場で判断していると、同じ問い合わせに職員ごとに違う答えを返すことになります。
医療機関の個人情報の扱いには、個人情報保護委員会と厚生労働省が出している「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(令和8年4月1日最終改正。以下「ガイダンス」)と、同じく両者が出している「同ガイダンスに関するQ&A(事例集)」(以下「Q&A事例集」)があります。受付で起きる場面の多くは、この2つに答えが書かれています。
この記事では、ガイダンスとQ&A事例集にもとづいて、受付で決めておく院内の取り扱いを場面ごとに整理します。
1. 受付で扱う情報と、かかってくる規定
受付で扱う情報は、氏名・生年月日・住所・連絡先だけではありません。受診したという事実、診療科、問診票に書かれた症状、保険の種類や資格の情報も含まれます。このうち病歴や診療の情報は、個人情報保護法の「要配慮個人情報」に当たります。
| 場面 | 扱う情報 | 見るところ |
|---|---|---|
| 受付・問診 | 氏名・症状・病歴、マイナ保険証などの資格情報 | ガイダンス(要配慮個人情報の取得)、Q&A事例集 A2-5 |
| 待合室での呼び出し | 氏名 | Q&A事例集 A3-10 |
| 知人・家族を名乗る問い合わせ | 受診・入院の有無、病状 | Q&A事例集 A3-11・A4-1・A4-2 |
| 診察室での家族への説明 | 病状・治療の内容 | ガイダンス(家族等への病状説明) |
| 紹介状・検査結果のやり取り | 診療情報 | ガイダンス(第三者提供の例外・利用目的) |
| 誤送信・紛失 | 診療情報 | ガイダンス(漏えい等の報告)、Q&A事例集 A3-9 |
問診票に書いてもらうことと、本人の同意
要配慮個人情報を取得するときは、原則としてあらかじめ本人の同意が必要です。ただしQ&A事例集は、患者が受付で問診票に自分の症状などを書き、マイナンバーカードや資格確認書とともに受診を申し出ることは、医療機関に取得されることを前提にしていると考えられるので、その行為をもって同意があったものと解されるとしています(A2-5)。受付で問診票を渡すたびに、別の同意書を取る必要はありません。
利用目的は掲示するだけでは足りない
医療機関は、個人情報の利用目的を特定し、院内掲示などで公表します。Q&A事例集は、掲示して終わりにせず、患者が十分理解できるよう受付時に注意を促したり、必要に応じて改めて説明したりすること、希望があれば詳しい説明や書面の交付を行うことを求めています(A2-3)。初診の受付で、掲示の場所を一言案内するところから始めます。
2. 待合室での呼び出し
Q&A事例集は、外来患者の氏名での呼び出しについて、次のように整理しています(A3-10)。
- 患者の氏名は個人を識別できる情報で、個人情報に当たる
- 他の患者に聞こえる氏名での呼び出しをやめてほしい、という要望があった場合は、誠実に対応する必要がある
- 一方で、氏名での呼び出しには、患者の取り違えを防ぐ面もある
- 自分の氏名を他の患者に聞かれることをどう受け止めるかは、患者の考え方や年齢、傷病の種類などによって様々である
- 患者本人の希望を踏まえ、個人情報の保護も含めた適切な医療を行うという観点から、対応可能な方法をとる
つまり、氏名での呼び出しを一律にやめる必要はないが、やめてほしいと言われたときに切り替えられる方法を持っておくことが求められています。受付で決めておくのは次の3つです。
- 切り替えの方法:受付番号、呼び出し用の番号札、予約システムの番号表示など、氏名を使わない呼び出し方を1つ用意する
- 要望の受け方:問診票や受付の案内に「お名前での呼び出しを希望されない方はお申し出ください」と書き、申し出があったら受付の画面や受付票に印を付ける
- 取り違えを防ぐ確認:番号で呼び出したときも、診察室や検査の前に、本人に氏名や生年月日を名乗ってもらって確かめる
待ち時間の表示や呼び出しの仕組みそのものの見直しは「クリニックの待ち時間を減らす|予約・問診・会計の見直し」で扱っています。
3. 知人・家族を名乗る問い合わせ
受付の電話や窓口で「〇〇さんは今日受診していますか」「〇〇さんの具合はどうですか」と聞かれる場面です。
受診しているかどうかも個人情報
Q&A事例集は、入院患者の知り合いと名乗る人への対応について、本人から特段の申し出がなく、入院していることを前提に面会に来たことが確認できるときに院内の案内として教えることは問題にならないと思われる一方、入院の有無を含めた問い合わせに答えることは問題となる可能性があるとしています(A3-11)。外来でも考え方は同じで、「受診しているか」「通院しているか」を答えること自体が、個人情報を伝えることになります。
Q&A事例集は同じ回答の中で、職員によって対応が異なることがないよう、統一的な取扱いを定めておくことも必要としています。受付で答えてよいこと・答えないことを、院内で1枚にまとめておきます。
家族への病状の説明
Q&A事例集は、家族等への病状の説明について次のように整理しています。
- 患者への医療の提供に際して家族等へ病状を説明することは、医療の提供のために通常必要な範囲の利用目的と考えられ、院内掲示などで公表し、患者から明示的に留保の意思表示がなければ、黙示の同意があったものと考えられる(A4-1)
- ただし、説明を行う対象者の範囲、説明の方法や時期について、あらかじめ本人に確認しておくなど、できる限り本人の意思に配慮する必要がある(A4-1)
- 診療録に記載された診断結果などを、家族を含む第三者に提供する場合は、原則として本人の同意が必要(A4-2)
- 本人の同意を得ることができない場合でも、本人や家族等の生命・身体・財産の保護のために必要がある場合は、家族等へ説明できる(個人情報保護法第27条第1項第2号)
ガイダンスは、本人と家族等に同時に説明する場合は、明示的に本人の同意を得なくても、同時に説明を受ける家族等への提供について本人の同意が得られたものと考えられる、としています。診察室に付き添ってきた家族への説明と、電話で聞いてきた家族への説明は、扱いが違うということです。
受付での答え方をそろえる
| 問い合わせ | 答え方(院内の取り扱いの例) |
|---|---|
| 知人を名乗る人が「受診しているか」を聞く | 受診の有無は答えない。「お答えできません」と伝える |
| 家族を名乗る電話で病状を聞く | 本人が説明を認めた家族等として登録がなければ答えない。登録があれば、登録してある連絡先へ折り返して相手を確かめてから、担当の医師・看護師につなぐ |
| 家族が窓口で検査結果を受け取りに来る | 本人の同意(委任状など)を確かめてから渡す。同意の確かめ方を院内で決めておく |
| 本人が意識のない状態で運ばれた、家族から安否の電話 | 生命・身体の保護のために必要な場合の例外(個人情報保護法第27条第1項第2号)を院長・医師が判断する |
| 勤務先・学校を名乗る問い合わせ | 本人の同意がなければ答えない |
表の答え方は院内の取り扱いの例です。ガイダンスとQ&A事例集の考え方をもとに、自院の診療科や患者層に合わせて決め、受付の職員全員が同じ答え方をできるようにします。
「説明してよい家族等」は、初診の問診票や受付で本人に確かめて記録するのが、いちばん確実な準備です。名前・続柄・連絡先を残し、受付の画面や受付票で見られるようにしておきます。
4. 受付でのやり取りと、書類の受け渡し
受付での声の大きさと、聞き取りの場所
受付での会話は、待合室に聞こえることがあります。症状や保険の種類など、周りに聞かれたくない内容を確認するときは、問診票への記入に切り替える、声を落とす、別の場所で聞くなどの配慮を、受付で決めておきます。
紹介状・検査結果・診断書の受け渡し
- 本人に渡すとき:氏名と生年月日を名乗ってもらい、受け取る書類の患者と一致するかを確かめる
- 代理の人に渡すとき:本人の同意(委任状など)の確かめ方を決め、誰が受け取ったかを記録する
- 郵送・FAXで送るとき:宛先を2人で確かめる、FAXは送信前に番号を読み上げるなど、誤送信を防ぐ手順を決める
Q&A事例集は、処方箋を別の医療機関へ誤ってFAX送信した事例について、誤送信が判明した場合は、まず送信先に連絡して情報を廃棄してもらうなどの対応が必要としています(A3-9)。
漏えいが起きたときの報告
ガイダンスは、要配慮個人情報が含まれる個人データの漏えい等が生じたときは、個人情報保護委員会に報告し、本人に通知しなければならないとしています。例として、患者の診療情報を含む個人データを記録したUSBメモリーの紛失が挙げられています。診療情報の誤送信や紛失は、件数が少なくても報告の対象になりうるので、起きたときに誰に知らせ、誰が判断するかを院内で決めておきます。報告の対象となる事態や方法の詳細は、個人情報保護委員会の通則ガイドラインで確かめます。
5. 受付の職員の守秘義務と研修
ガイダンスの別表4は、医療関係の資格ごとの守秘義務の根拠を挙げています。医師・歯科医師・薬剤師・助産師は刑法第134条、看護師・准看護師・保健師は保健師助産師看護師法第42条の2などです。
受付・医療事務の職員には、資格にもとづく守秘義務が無い場合があります。一方で、医療機関は個人情報取扱事業者として、従業者に個人データを取り扱わせるときは必要かつ適切な監督を行う義務を負います(個人情報保護法第24条)。受付の職員については、次の3つをそろえます。
- 雇用契約・就業規則に守秘義務を書く(退職後も含める)
- 院内の取り扱いを1枚にまとめ、入職時に説明する(この記事の第2章・第3章の表を院内の言葉に直したもの)
- 年に1回、場面ごとに確かめる(呼び出しの切り替え、家族を名乗る電話、代理の受け取り、誤送信のときの連絡先)
Q&A事例集は、個人情報に関する相談の窓口について、専用の窓口のほかに、受付・会計の窓口に相談の窓口の機能を持たせることでもよいとしています(A5-4)。受付の職員が、個人情報についての相談を受けたときに誰につなぐかも、あわせて決めておきます。
6. 自院の取り扱いを確かめる表
次の表を使って、自院で決まっているかを確かめます。決まっていない行が、最初に決めるところです。
| 確かめること | 決まっているか | 決めること |
|---|---|---|
| 氏名を使わない呼び出し方がある | □ | 番号札・受付番号など、切り替えの方法 |
| 呼び出しの要望を受ける案内がある | □ | 問診票・受付の掲示の文言と、印の付け方 |
| 利用目的の掲示を、初診の受付で案内している | □ | 案内の一言と、書面を渡すときの手順 |
| 説明してよい家族等を本人に確かめて記録している | □ | 確かめる時点(初診・入院前など)と記録の場所 |
| 受診の有無の問い合わせへの答え方が統一されている | □ | 答えない場面と、そのときの言い方 |
| 代理の人への書類の受け渡しの手順がある | □ | 同意の確かめ方と、受け取りの記録 |
| 誤送信・紛失のときの連絡先と判断する人が決まっている | □ | 院内の連絡の順番 |
| 受付の職員の守秘義務が雇用契約・就業規則にある | □ | 条文と、入職時の説明 |
7. つまずきやすい点
- 呼び出しをすべて番号にして、取り違えの確認を省く。番号での呼び出しに変えても、診察や検査の前に本人に名乗ってもらう確認は残します
- 「家族です」と言われて答えてしまう。電話では相手を確かめられません。登録してある連絡先へ折り返すなど、確かめる手順を決めておきます
- 受付の職員ごとに答えが違う。Q&A事例集も、統一的な取扱いを定めておくことを求めています。答え方を1枚にまとめて、受付に置きます
- 利用目的を掲示して終わりにする。掲示に加えて、受付で注意を促すこと、希望があれば説明・書面の交付を行うことが求められています
- 誤送信を院内で片付ける。要配慮個人情報が含まれる場合は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知の対象になりえます
8. まとめ
- 受付で扱う病歴・診療の情報は要配慮個人情報。問診票に書いて受診を申し出ることで、取得の同意があったものと解される(Q&A事例集 A2-5)
- 氏名での呼び出しは禁じられていないが、やめてほしいという要望には誠実に対応する。切り替えの方法と、取り違えを防ぐ確認を用意する(A3-10)
- 受診の有無を含む問い合わせに答えることは問題となる可能性がある。職員ごとに対応が違わないよう、統一的な取扱いを定める(A3-11)
- 家族への説明は、対象者の範囲・方法・時期をあらかじめ本人に確認する。診断結果などを第三者に提供するときは原則として本人の同意が必要(A4-1・A4-2)
- 要配慮個人情報を含む漏えい等は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知の対象になる。受付の職員の守秘義務は雇用契約・就業規則で定める
参考資料
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日通知、令和8年4月1日最終改正):https://www.mhlw.go.jp/content/001470633.pdf
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「『医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス』に関するQ&A(事例集)」(平成29年5月30日、令和8年4月一部改正)A2-3・A2-5・A3-9・A3-10・A3-11・A4-1・A4-2・A5-4:https://www.mhlw.go.jp/content/001685013.pdf
- 厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス等」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000027272.html
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第24条・第27条(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057