クリニックの看護師の採用は、求人の条件を正確に書くこと、無料の経路(ハローワーク・ナースセンター)を先に使うこと、有料の紹介会社は手数料と返戻金を確かめてから使うことの3つが基本です。求人に書く労働条件は職業安定法で定められていて、令和6年4月から明示する項目が増えています。
診療所で働く看護師は少なくありません。衛生行政報告例(令和6年末、令和7年7月29日公表)では、就業している看護師1,363,142人のうち194,665人(14.3%)、准看護師233,022人のうち76,541人(32.8%)が診療所で働いています。准看護師は、診療所が最も多い就業場所です。
この記事では、職業安定法と看護師等の人材確保の促進に関する法律、厚生労働省の資料にもとづいて、求人の出し方と紹介会社の確かめ方、定着のための取り組みを整理します。
1. 看護師の就業場所
| 区分 | 看護師 | 准看護師 |
|---|---|---|
| 就業者の総数 | 1,363,142人 | 233,022人 |
| うち病院 | 895,944人(65.7%) | ― |
| うち診療所 | 194,665人(14.3%) | 76,541人(32.8%) |
(衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況、令和6年末現在)
看護師の3分の2は病院で働いています。診療所の求人は、病院から移る人、ブランクから戻る人、准看護師などが主な候補になります。夜勤がない、通勤が近い、日曜休みなど、診療所の働き方の特徴を求人に具体的に書くことが、病院の求人との違いを伝えることになります。
2. 求人に書かなければならないこと
労働条件の明示(職業安定法第5条の3)
求人者は、求職者に対して労働条件を明示しなければなりません(職業安定法第5条の3)。明示する項目は施行規則第4条の2第3項に定められています。
| 項目 | 書き方の注意 |
|---|---|
| 業務の内容 | 外来の診療補助、検査、処置、訪問診療の同行など具体的に |
| 従事すべき業務の変更の範囲(令和6年4月から) | 将来担当する可能性のある業務 |
| 契約期間 | 期間の定めの有無 |
| 有期契約の更新の基準(令和6年4月から) | 通算契約期間や更新回数の上限の有無 |
| 試用期間 | 有無と期間、その間の条件 |
| 就業の場所 | 分院がある場合はその所在地 |
| 就業場所の変更の範囲(令和6年4月から) | 分院への異動の可能性など |
| 就業時間・休憩・休日・時間外労働 | 診療時間の延長時の扱いも |
| 賃金 | 基本給、手当、固定残業代がある場合はその内容 |
| 加入保険 | 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険 |
| 受動喫煙の防止の措置 | 敷地内の取り扱い |
| 募集者の氏名または名称 | |
| 派遣労働者として雇用する場合はその旨 |
労働条件は、面接など求職者と最初に接触するまでに、すべて明示することが求められています。やむを得ず変更する場合は、変更の内容を明示しなければなりません。
雇用契約を結ぶときには、別に労働基準法第15条と施行規則第5条による労働条件の明示(書面の交付など)が必要です。求人の段階の明示と、契約時の明示は別のものです。
求人の情報を正確に(職業安定法第5条の4)
求人の情報は、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確で最新の内容に保たなければなりません(職業安定法第5条の4)。募集を終えた求人を出したままにしない、実際と違う給与の例を書かないことが求められます。
3. 採用の経路
| 経路 | 費用 | 根拠・特徴 |
|---|---|---|
| ハローワーク | 無料 | 無料で公共に奉仕する職業紹介機関(職業安定法第8条)。医療・介護などの分野向けの人材確保対策コーナーがある |
| 都道府県ナースセンター | 無料 | 看護師等の無料職業紹介(看護師等の人材確保の促進に関する法律第14条・第15条)。ハローワークと連携 |
| 求人広告・自院のウェブサイト | 媒体による | 労働条件の明示と正確な表示の義務は同じ |
| 有料職業紹介 | 手数料 | 届け出た手数料表に基づく。返戻金の規定を確かめる |
厚生労働省の資料(令和5年)では、ハローワークの紹介による看護職員の就職件数は年間45,000件程度、都道府県ナースセンターの無料職業紹介による就職者数は年間12,000人程度で推移しているとされています。
ナースセンターの届出制度
看護師等は、病院等を離職したときなどに、住所・氏名などを都道府県ナースセンターに届け出るよう努めることとされています(看護師等の人材確保の促進に関する法律第16条の3、平成27年10月1日から)。「病院等」には診療所も含まれます(同法第2条)。ナースセンターは、届出をした人に復職の支援を行っています。ブランクのある看護師を採用の候補にするなら、ナースセンターに求人を出しておく意味があります。
4. 有料の人材紹介会社を使うときに確かめること
手数料と返戻金
有料職業紹介事業者は、届け出た手数料表に基づいて手数料を受け取ります(職業安定法第32条の3)。紹介会社と契約するときは、次を書面で確かめます。
- 手数料の率または額(理論年収の何%か、その年収に何が含まれるか)
- 早期に離職した場合の返戻金の規定(期間と返金の割合)
- 請求の時期(入職日か、内定日か)
人材サービス総合サイトで確かめられること
厚生労働省の人材サービス総合サイトでは、職業紹介事業者ごとに、就職者の数、6か月以内に離職した人の数、手数料、返戻金制度の有無などが公開されています。令和7年4月1日からは、主要な5職種の平均の手数料率の公開も求められています。
事業者に禁じられていること
| ルール | 時期 |
|---|---|
| 求職者に就職のお祝い金などの金銭を出して求職の申込みを勧めること | 令和3年4月1日から禁止 |
| 紹介した人に、就職後2年間、転職を勧めること | 禁止。令和7年1月1日から許可の条件にも |
| お祝い金の禁止 | 令和7年1月1日から許可の条件にも |
適正認定制度
医療・介護・保育分野の職業紹介事業者については、厚生労働省の委託事業による適正認定制度があります。令和6年度からは、就職後6か月以内の離職に対する返戻金制度が必須の基準になりました。認定を受けているかどうかは、紹介会社を選ぶ材料の1つになります。
困ったときの相談先
令和5年2月1日から、全国の都道府県労働局に、医療・介護・保育の求人者向けの特別相談窓口が置かれています。紹介会社との間で手数料などのトラブルがあったときに相談できます。
5. 定着のために
数字で分かること
雇用動向調査(令和7年、令和8年8月31日公表)では、医療・福祉の入職率は14.5%、離職率は14.3%でした。診療所の看護師に限った離職率の公的なデータはありません。自院の入職と離職を毎年記録し、何年目で辞める人が多いかを見ます。
法律の努力義務
- 病院・診療所の管理者は、医療従事者の勤務環境の改善などの措置を講ずるよう努めなければなりません(医療法第30条の19)
- 病院等の開設者は、看護師等の処遇の改善、研修などの措置を講ずるよう努めなければなりません(看護師等の人材確保の促進に関する法律第5条)
各都道府県には医療勤務環境改善支援センターが置かれていて、勤務環境の改善について相談できます。
見直すこと
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 入職後の説明 | 業務の手順書、使う機器、電子カルテの使い方を最初の週に説明する |
| 業務の分担 | 看護師でなくてもできる作業(物品の補充、書類の準備など)を医療事務と分ける |
| 時間外 | 診療時間の延長が常態になっていないか、時間外労働を記録して確かめる |
| 賃金 | ベースアップ評価料を算定している場合、その対象と賃上げの状況を説明する |
| 相談の窓口 | ハラスメントなどの相談先を決めて周知する |
6. 採用の手順
- 採用する理由と人数、働き方(常勤・パート、曜日・時間帯)を決める
- 求人票を作る:第2章の項目をすべて書き、令和6年4月からの変更の範囲・更新の基準も書く
- ハローワークとナースセンターに求人を出す
- 自院のウェブサイトに採用のページを作る:求人票と同じ内容を載せ、最新に保つ
- 有料の紹介会社を使う場合は、手数料・返戻金・請求の時期を書面で確かめる
- 面接までに労働条件をすべて明示する
- 雇用契約のときに、労働基準法に基づく労働条件を書面で明示する
- 入職後の説明と、相談の窓口を決めておく
7. チェックリスト
- 求人票に業務の変更の範囲と就業場所の変更の範囲を書いた
- 有期契約の場合、更新の基準と上限の有無を書いた
- 賃金の内訳(手当・固定残業代)を書いた
- 募集を終えた求人を取り下げている
- ハローワークとナースセンターに求人を出した
- 紹介会社の手数料・返戻金・請求の時期を書面で確かめた
- 人材サービス総合サイトで紹介会社の実績を確かめた
- 雇用契約時に労働条件を書面で明示している
- 入職と離職を毎年記録している
8. 落とし穴
- 令和6年4月からの明示の項目が抜けている:古い求人票の様式を使い回すと、変更の範囲や更新の基準が抜けます。
- 求人の条件と契約の条件が違う:求人と異なる条件で契約する場合は、その変更の内容を明示する必要があります。
- 有料の紹介だけに頼る:無料の経路を使わずに手数料の高い経路から始めると、採用の費用が膨らみます。
- 返戻金の規定を読まずに契約する:早期に辞めたときの返金の期間と割合は、紹介会社ごとに違います。
- 採用した後の説明がない:入職直後の説明と相談先がないと、定着に響きます。
9. まとめ
- 診療所で働く看護師は約19万5千人(14.3%)、准看護師は約7万7千人(32.8%)
- 求人には職業安定法に基づく労働条件を明示する。令和6年4月から変更の範囲と更新の基準が加わった
- 求人の情報は正確で最新に保つ(第5条の4)
- ハローワークとナースセンターは無料。有料の紹介会社は手数料・返戻金・実績を確かめる
- 定着は管理者と開設者の努力義務。都道府県の医療勤務環境改善支援センターに相談できる
参考資料
- 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/dl/gaikyo.pdf
- e-Gov法令検索「職業安定法」: https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141
- 厚生労働省「令和6年4月から職業安定法施行規則が改正されます」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/r0604anteisokukaisei1.html
- e-Gov法令検索「看護師等の人材確保の促進に関する法律」: https://laws.e-gov.go.jp/law/404AC0000000086
- 厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」(令和5年): https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001140978.pdf
- 厚生労働省 お祝い金の禁止のリーフレット: https://www.mhlw.go.jp/content/000965449.pdf
- 厚生労働省 許可条件への追加の資料: https://www.mhlw.go.jp/content/001327688.pdf
- 厚生労働省 手数料率の公開のリーフレット: https://www.mhlw.go.jp/content/001328410.pdf
- 厚生労働省「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045159.html
- 厚生労働省「医療・介護・保育」求人者向け特別相談窓口: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30703.html
- 人材サービス総合サイト: https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-2/index.html
- e-Gov法令検索「医療法」: https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205