医師が個人でクリニックを開業するときの手続きは、保健所(医療法)地方厚生局(健康保険法)の2つの流れで進みます。順番は、保健所への事前相談 → 施設の完成 → 開設 → 開設後10日以内の開設届 → 保健所の実査 → 地方厚生局への保険医療機関の指定申請 → 毎月1日付の指定 → 保険診療の開始です。

計画で最も気をつけるのは、保険医療機関の指定は毎月1日付けで、申請の締切が前月の中旬ごろにあることです。締切を1日過ぎると、保険診療を始められる日が1か月遅れます。開院日から逆算して、保健所の手続きと厚生局の申請の日程を組む必要があります。

この記事では、医療法・健康保険法の条文と、東京都南多摩保健所の開設の手引き、関東信越厚生局の案内にもとづいて、手続きの流れを整理します。締切や必要書類は保健所・厚生局の事務所ごとに違うため、実際の手続きは所管の最新の案内で確かめてください。


1. 全体の流れ

段階手続き相手根拠
1事前相談(平面図、開設の予定)保健所保健所の案内
2施設の完成構造設備の基準(医療法施行規則第16条など)
3開設
4開設届(開設後10日以内)保健所(都道府県知事・保健所設置市長など)医療法第8条
5エックス線装置の備付届(備えた日から10日以内)保健所医療法第15条第3項、同法施行規則第24条の2
6実査、開設届の副本の受け取り保健所保健所の案内
7オンライン資格確認の導入の手続き地方厚生局厚生局の案内
8保険医療機関の指定申請地方厚生局の事務所健康保険法第65条
9施設基準の届出地方厚生局の事務所施設基準の通知
10保険医療機関の指定(毎月1日付)健康保険法第63条第3項第1号
11生活保護法・労災保険の指定、麻薬施用者免許など都道府県・労働局各法令

東京都南多摩保健所の「診療所(歯科診療所)新規開設の手引き(個人開設)」(令和6年4月)も、「事前相談 → 施設完成 → 開設 → 開設届(開設後10日以内)→ 実査 → 社会保険手続き → 保険診療開始」という流れを示しています。


2. 保健所の手続き(医療法)

開設者が医師個人か、それ以外か

開設者手続き根拠
臨床研修等修了医師(個人)開設後10日以内に届出医療法第8条
医師でない者、医療法人など開設前に許可。開設後10日以内に開設年月日・管理者などを届出医療法第7条第1項、医療法施行令第4条の2
病床を設ける場合病床の設置の許可。使用前の検査と許可証の交付医療法第7条第3項、第27条

医療法第8条は、臨床研修等修了医師が診療所を開設したときは、開設後10日以内に、診療所の所在地の都道府県知事に届け出るよう定めています。診療所が保健所を設置する市や特別区にある場合は、その市長・区長が届出先になります(医療法第7条第1項の括弧書き)。届出の窓口は保健所です。

医療法人を設立してから開業する場合は、開設の許可が先に必要になり、個人開設とは段取りが大きく変わります。医療法人の設立そのものにも都道府県の認可が必要です。

事前相談

保健所の多くは、開設の前に平面図などを持って相談するよう案内しています。南多摩保健所の手引きでは、事前相談には開設のスケジュール(見込み)と平面図を持参し、次のような指導基準を示しています。

  • 他の施設と機能的・物理的に明確に区画する(原則として天井まで仕切る)
  • 診察室は医師1人につき1室が望ましい
  • 標準的な面積の目安(診察室9.9㎡以上、待合室3.3㎡以上、調剤室6.6㎡以上など)
  • 新築の物件は、建築確認のあとに開設届を出す

これらは南多摩保健所の指導基準で、全国共通の法令の数値ではありません。物件の契約や内装の設計を固める前に、所管の保健所に図面を見てもらうことで、工事のやり直しを防げます。

構造設備と院内掲示

診療所の構造設備は、医療法施行規則第16条の基準(電気・熱・ガスなどの危害防止、火気を使う場所の防火設備、消火の器具など)と、建築基準法などの関係法令に従います。開設後は、管理者の氏名、診療に従事する医師の氏名、診療日と診療時間を院内に掲示する義務があります(医療法第14条の2)。

エックス線装置の備付届

診療用エックス線装置を備えたときは、診療所の管理者が、10日以内に届け出ます(医療法第15条第3項、同法施行規則第24条の2)。南多摩保健所の手引きでは、平面図・側面図と、漏えい放射線の測定結果報告書の写し(測定後6か月以内のもの)を添付するとされています。

実査と副本

開設届を出すと、保健所の職員が施設を確かめる実査があります。南多摩保健所の手引きでは、開設届の副本は実査のあとに渡されます。この副本(写し)は保険医療機関の指定申請の添付書類になるため、実査の日程は厚生局の締切から逆算して調整します。


3. 地方厚生局の手続き(健康保険法)

保険医療機関の指定

保険診療を行うには、厚生労働大臣(地方厚生局)の指定を受けた保険医療機関でなければなりません(健康保険法第63条第3項第1号)。指定は開設者の申請により行われます(同法第65条第1項)。

関東信越厚生局の案内によると、流れは「管轄の事務所に申請 → 地方社会保険医療協議会に諮問 → 指定通知書の発送・公示」で、指定は申請者の希望がない限り毎月1日付けです。締切は厚生局の事務所ごとに定められています。

神奈川事務所の申請締切(令和8年度の例)指定日
8月13日9月1日
9月10日10月1日
10月14日11月1日
11月12日12月1日
12月10日令和9年1月1日

近畿厚生局は、指定日は原則として指定申請をした翌月1日とし、締切は各府県事務所に問い合わせるよう案内しています。

申請の主な添付書類

関東信越厚生局の案内では、診療所の新規指定の申請には次のものが必要です。

  • 開設の届書の写し(開設届の副本)
  • 保険医の登録記号番号
  • オンライン資格確認の導入計画書、または猶予届出書
  • 受付番号情報提供依頼書兼回答書の写し
  • 社会保険・労働保険の加入状況確認票

オンライン資格確認の手続きは指定申請より早い

保険医療機関は、原則としてオンライン資格確認の体制を整えなければなりません(保険医療機関及び保険医療養担当規則第3条)。関東信越厚生局の「オンライン資格確認導入に関する手続き」は、指定予定日の約2か月前の3日が受付の期日の原則です(例:令和8年11月1日の指定なら9月3日)。保険医療機関の指定申請の締切より早いので、見落とさないようにします。

保険医の登録と指定の有効期間

保険医療機関で健康保険の診療に従事する医師は、保険医の登録を受けていなければなりません(健康保険法第64条・第71条)。勤務医のときに登録を受けていれば、その登録記号番号を使います。

保険医療機関の指定は、指定の日から6年で効力を失います(健康保険法第68条第1項)。一定の保険医療機関は、期限の6か月前から3か月前までに別段の申出がなければ、更新の申請があったものとみなされます(同条第2項)。

施設基準の届出

加算などを算定するには、施設基準の届出が必要です。月の最初の開庁日までに受理されれば当月1日から算定できるため、指定の月から算定したい項目は、指定申請と並行して準備します。手続きの詳細は施設基準の届出の流れと注意点で扱っています。


4. あわせて出す主な届出・申請

手続き相手根拠・内容
生活保護法の指定医療機関都道府県知事生活保護法第49条。6年ごとの更新(第49条の3)
労災保険の指定医療機関都道府県労働局長労災保険法施行規則第11条。厚生労働省の案内では指定の効力は3年間で、申出がなければ自動更新
麻薬施用者免許都道府県知事麻薬及び向精神薬取締法第3条。有効期間は免許の日の属する年の翌々年の12月31日まで(第5条)
医療機能情報の報告都道府県知事医療法第6条の3。開設したら速やかに新規の報告

どれが必要かは、診療の内容によって変わります。厚生労働省の案内では、労災保険の指定の申請書類として、開設の届出の写しや施設基準の受理の写しなども挙げられています。


5. 開院日から逆算した段取り

保健所と厚生局の手続きは、前の段階の書類が次の段階の添付書類になる形でつながっています。開院日(保険診療の開始日)を決めたら、次の順に逆算します。

  1. 指定日を決める:保険診療を始める日(毎月1日)を決めます。
  2. 厚生局の締切を確かめる:その指定日の申請締切を、管轄の事務所の案内で確かめます。
  3. オンライン資格確認の手続きの期日を確かめる:関東信越厚生局の例では、指定予定日の約2か月前です。
  4. 開設届の副本を受け取れる日を確かめる:申請の締切までに副本(写し)を用意できるよう、開設日と実査の日程を保健所と調整します。
  5. 施設の完成の日を決める:開設の前に施設が完成している必要があります。内装工事と医療機器の搬入、エックス線装置の測定の日程を組みます。
  6. 事前相談の時期を決める:物件の契約や設計の前に保健所に相談できるよう、全体を前倒しします。

6. 開設したあとの届出

場面期限根拠
開設者の住所・氏名などが変わった10日以内医療法施行令第4条第1項
届け出た事項(医師開設の診療所)が変わった10日以内医療法施行令第4条第3項
休止した・再開した10日以内医療法第8条の2第2項
廃止した10日以内医療法第9条第1項

医業を行う診療所は、臨床研修等修了医師に管理させなければなりません(医療法第10条第1項)。どの事項が変更の届出の対象になるかは、所管の保健所の様式で確かめてください。

開設者を変える・法人化するとき

個人から医療法人への変更や開設者の変更、移転では、保険医療機関の指定が途切れないよう「遡及指定」の手続きがあります。取扱いは「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年6月5日 保医発0605第2号)で見直され、令和8年9月1日から新しい取扱いが適用されています。以前の通知や事務連絡は令和8年8月31日限りで廃止されたため、古い資料で判断しないよう注意が必要です。


7. 落とし穴

  • 物件を先に契約する:保健所の指導基準に合わない物件だと、工事のやり直しや、開設そのものが難しくなることがあります。契約前に図面で相談します。
  • 厚生局の締切を1日過ぎる:指定は毎月1日付けのため、締切を過ぎると保険診療の開始が1か月遅れます。
  • オンライン資格確認の手続きを後回しにする:指定申請より早い期日が設けられている厚生局があります。
  • 開設者の種類を取り違える:医療法人で開業する場合は、開設の許可が先に必要です。個人開設の段取りで進めると間に合いません。
  • エックス線装置の届出を忘れる:開設届とは別に、備えた日から10日以内の届出が必要です。
  • 古い手引きで判断する:遡及指定の取扱いは令和8年9月1日から変わりました。保健所・厚生局の最新の案内を確かめます。

8. まとめ

  • 開業の手続きは、保健所(医療法)と地方厚生局(健康保険法)の2つの流れで進む
  • 医師個人の開設は開設後10日以内の開設届、医療法人などは開設前の許可が必要
  • 保険医療機関の指定は毎月1日付け。締切は厚生局の事務所ごとに違い、前月の中旬ごろにある
  • 開設届の副本が指定申請の添付書類になるため、開設日と実査の日程を厚生局の締切から逆算する
  • オンライン資格確認の手続きは、指定申請より早い期日が設けられていることがある

具体的な日程と必要書類は、所管の保健所と地方厚生局の事務所に確認してください。


参考資料