個人開業の診療所は、医療保健業として健康保険法・厚生年金保険法の定める法定16業種にあたり、常時5人以上の従業員を使用していれば健康保険・厚生年金保険が強制適用になります。パートの看護師・医療事務を雇うときは、社会保険・雇用保険それぞれの加入基準と、有給休暇の比例付与を確認しておく必要があります。この記事では、個人開業と医療法人の違い、パート職員の加入基準、有給休暇の付与日数を整理します。
1. 医院の形態で変わる社会保険の強制適用
| 医院の形態 | 従業員数 | 健康保険・厚生年金の扱い |
|---|---|---|
| 医療法人 | 人数にかかわらず | 強制適用事業所(法人事業所) |
| 個人開業 | 常時5人以上 | 強制適用事業所(医療保健業は法定16業種の一つ) |
| 個人開業 | 常時5人未満 | 任意適用(従業員の半数以上の同意+厚生労働大臣の認可で加入可能) |
「常時5人以上」の人数には、パート職員も含めて数えます。 個人開業で5人未満の診療所でも、将来の増員を見込んで任意適用の手続きを検討することがあります。
2. パート職員が被保険者になる基準
原則:4分の3基準
1週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が、同じ事業所の通常の労働者(フルタイム)の4分の3以上であれば、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。
4分の3未満でも対象になる場合(短時間労働者の適用拡大)
4分の3基準を満たさない場合でも、勤務先が特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数が1年のうち6か月以上51人以上になると見込まれる企業等。令和6年10月から)に当たり、かつ次の4要件をすべて満たす短時間労働者は被保険者になります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 労働時間 | 1週の所定労働時間が20時間以上 |
| 賃金 | 所定内賃金が月額8.8万円以上 |
| 雇用期間 | 2か月を超える雇用の見込みがあること |
| 学生でないこと | 昼間学生は対象外(夜間・定時制等は対象になる場合あり) |
医院単体の従業員数が51人を超えることは多くありませんが、同一の医療法人が複数の医院・施設を運営している場合は、法人全体の人数で企業規模要件を判定します。 複数施設を運営している場合は、合算した人数を確認してください。
3. 雇用保険の加入基準
雇用保険は、1週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇用されることが見込まれる場合に加入対象になります。雇用契約に更新の可能性があり、31日未満での雇止めが明示されていない場合は、31日以上の雇用見込みがあるものとして扱われます。
令和10年(2028年)10月1日からは、週の所定労働時間の基準が10時間以上に引き下げられる予定です(改正雇用保険法、令和6年5月10日成立)。短時間のパート職員を雇う医院は、今後の適用拡大も踏まえて勤務時間を設計しておくと、制度変更時の対応がしやすくなります。
4. 有給休暇の比例付与
通常の労働者と同じ基準になる場合
週所定労働日数が5日以上、または週所定労働時間が30時間以上のパート職員には、正社員と同じ基準で付与します。6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合に10労働日、以降は勤続年数に応じて加算されます(最大20労働日)。
比例付与になる場合
週所定労働日数が4日以下、かつ週所定労働時間が30時間未満のパート職員には、労働基準法第39条第3項に基づく比例付与表の日数を適用します。
| 週所定労働日数 | 年間所定労働日数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4日 | 169〜216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
| 3日 | 121〜168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
| 2日 | 73〜120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
| 1日 | 48〜72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
勤務日数を変更した場合は、変更後の所定労働日数で再計算します。採用時に決めた曜日・時間が、入職後に変わることもあるため、勤務条件を変更したタイミングで有給休暇の基準を見直す運用にしておくと漏れを防げます。
採用面接で確認すべき勤務可能な曜日・時間帯は、クリニックの採用面接も参照してください。
5. 実行時の落とし穴
- 個人開業だから社会保険は任意だと思い込む。 医療保健業は法定16業種の一つで、常時5人以上なら強制適用です。
- パートの人数を5人未満に抑えているつもりが、含める人数を誤る。 「常時」の人数にはパートも含めて数えます。
- 4分の3基準だけで判断し、短時間労働者の適用拡大の4要件を確認しない。 複数施設を運営する法人は、企業規模要件の合算を見落としやすい部分です。
- 有給休暇の比例付与の対象者に、フルタイムと同じ日数を付与してしまう。 週所定労働日数・時間を確認してから付与日数を決めます。
- 勤務条件の変更時に有給休暇の基準を見直さない。 曜日・時間の変更後は、比例付与の表も再確認します。
まとめ
- 個人開業の診療所は、医療保健業として法定16業種の一つにあたり、常時5人以上で健康保険・厚生年金保険が強制適用になる。医療法人は人数にかかわらず強制適用
- パート職員は、4分の3基準を満たせば被保険者になる。満たさなくても、週20時間以上・月額8.8万円以上・学生でない・企業規模51人超(令和6年10月から)の4要件で対象になる場合がある
- 雇用保険は現行週20時間以上・31日以上雇用見込みが基準。令和10年10月からは週10時間以上に拡大予定
- 有給休暇は、週所定労働日数4日以下かつ週所定労働時間30時間未満のパート職員に比例付与表を適用する
- 勤務条件を変更したら、社会保険・雇用保険の加入基準と有給休暇の付与日数をその都度見直す
参考資料
- 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」: https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/index.html
- 日本年金機構「厚生年金保険・健康保険事業所関係 届書等の留意事項(適用事業所の範囲)」: https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
- 厚生労働省 雇用保険の適用拡大に関する資料: https://www.mhlw.go.jp/content/001207213.pdf
- e-Gov法令検索「労働基準法」: https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049